幼年要目

幼年要目

成人要目 幼年要目
分野 代表的価値 回避価値 達成価値
指針確立 天命自覚

勝手行動

わがままをしてはなりません。

配所適合

いつも役目を果たしましょう。

基本体得 徳性練磨

言行相違

嘘をついてはなりません。

品性維持

いつも行儀をよくしましょう。

英知伝承 社会貢献

迷惑発生

弱い者をいじめてはなりません。

価値創造

いつも工夫に努めましょう。

能力開発 手腕向上

邪道援用

卑怯なことをしてはなりません。

過程完遂

いつも用意と後始末をしましょう。

行動体験 負荷体験

放縦浪費

ものを粗末にしてはなりません。

責任体験

いつも約束を守りましょう。

Ⅰ.幼年要目の語義

  • 成人要目における全域性を引き継ぐ、幼年期向けの基本的な規範教示十箇条を幼年要目と呼ぶ。

Ⅱ.幼年要目の意義

  1. 人格の基礎は幼児期までに形作られることが知られている。
  2. 多くの人において、幼児期に根差す人格的不備が生涯の枷となっている。
  3. 長じて後は、直すよりむしろ押し通そうとして迷惑をかけ不幸を招きやすい。
  4. 幼児に対する教育的指導の基本骨格の十全性は、極めて重要と言える。
  5. 幼児に対して基本事項を一貫して反復教示することは有効な方法と考えられる。
  6. この教示内容を成人要目を踏まえたものとすれば適切を期することができる。

Ⅲ.幼年要目の成り立ち

  1. 一般に幼児期に指導すべきとされる規範を全域的に列挙する。
  2. 取材列挙した模範項目を成人要目の各領域に振り分ける。
  3. 各領域で基本に連なる核心の要素を抽出する。
  4. 基本性と具体性を兼ね備えた項目として表現する。
  5. 各項目を相互に補完的で釣合のとれる内容へと手直しする。
  6. 各項目は各領域の代表的価値に対する初等的具体事項となる。

Ⅳ.幼年要目の使用形態例

  1. 一日一回定時に子供を集めて列座させる。
  2. 指導者または年長の子供が一項目ずつ読み上げる。(項目の番号は読まない)
  3. 他の子供は、その後を繰り返すように唱和する。
  4. 各項目について一日の共同反省を行う。
  5. 関連のある解説や逸話などを聞かせる

【参考】

江戸時代の会津藩では、童子訓という八箇条が、上記Ⅳ(使用形態例)のような形で日常敬化されていました。

 

これが会津出身の人材の精神的底力となり、明治維新期の逆境を克服する上で大きく貢献したことが知られています。

 

幼年要目の構想のきっかけの一つは、この童子訓との出合いにありました。

 

ちなみにその内容は、

一、年長者の言うことを聞かなければなりませぬ。

二、年長者にはおじぎをしなければなりませぬ。

三、嘘を言ってはなりませぬ。

四、卑怯な振る舞いをしてはなりませぬ。

五、弱い者をいじめてはなりませぬ。

六、そとで物を食べてはなりませぬ。

七、そとで女と言葉を交わしてはなりませぬ。

幼年要目十箇条

一、わがままをしてはなりません。

 

二、嘘をついてはなりません。

 

三、弱い者をいじめてはなりません。

 

四、卑怯なことをしてはなりません。

 

五、ものを粗末にしてはなりません。

 

六、いつも役目を果たしましょう。

 

七、いつも行儀をよくしましょう。

 

八、いつも工夫に努めましょう

 

九、いつも用意と後始末をしましょう。

 

十、いつも約束を守りましょう。

幼年要目解説

幼年要目は、成人要目の子供版とも言えるものです。

 

成人要目の主な領域ごとに、代表格と目される内容を選び、低年齢でも比較的理解しやすい内容に置き換えて表現しています

 

十箇条のうち前半五項目には、まず避けなければならない内容をまとめ、後半五項目は積極的に実行する項目をまとめていますが、これらがそれぞれ成人要目の五大分野に対応します。

 

また、結びの「なりません」という言葉は、単に大人からの要望としてというより、実際に「成らない」結果につながるという法則性を知らせようとするものです。

 

一、わがままをしてはなりません。

わがまま・勝手は依存人格の特性の一つであり、ともすれば引きずったままで成長し、生涯にわたって周囲や社会に多大な迷惑を及ぼす元となります。

 

わがままと個性的な意志とを区別できる感覚を早期に養うこと、またわがままの自己傷害効果を理解することは、長い人生を自らの依存型衝動の奴隷として生きるか、心の自由自立のもとに価値ある目的に添って生きることができるかの大きな違いをもたらします。

 

二、嘘をついてはなりません。

いわゆる「嘘」は、目の前の自己防衛のために偽りを告げるところに始まりますが、これを「方法」の一つとして扱う癖がつくと、一生をおびただしい虚偽で埋め、身の不幸を導くことになります。

 

嘘を絶つことの意識づけは、粉飾を要しないだけの誠実な行ないに徹する姿勢のもとであり、事実と信義の通じる世界に生きる人々との人間関係に仲間入りする基礎ともなります。

 

そのことは人生におけるかけがえのない宝となります。

 

正直で誠実な生き方に伴い、最終的な検証に耐える過程を踏む習慣が養われ、随所に成果を上げる人生を歩むことにもつながります。

 

三、弱い者をいじめてはなりません。

弱い者に対する横暴は、する側の比較的小さな短期的な満足に対して、される側の苦しみが大きく、また長く忘れられないことが一般的なため、やがて深刻な反作用を招くもととなります。

 

ただ、幼年期には必ずしもそうしたことの理解に基づいて行動を制御することができるものではないため、排泄の場所の仕付けなどと同様、とにかくこうすべきものという意識づけも必要となります。

 

幼年期に植えつけられる弱者保護の精神は、「三つ子の魂」となって、社会正義の実現を推進する人材への成長の糸口ともなりえます。

 

四、卑怯なことをしてはなりません。

「卑怯」も嘘と同様、器量不足の者が道義を離れても自己防衛をはかろうとするところに発生します。

 

こうしたことが人格化してしまうと、人生全体を汚れたものにしてしまうことにもなります。

 

省みて恥じないだけの大道を踏み外すことなく事を運ぶ習慣は、追い込まれる以前にこれを予見して回避する能力、卑怯な手段に訴えなくて済むだけの一般能力を養う姿勢にもつながります。

 

五、ものを粗末にしてはなりません。

ものを活かして使う生活習慣は、単に捨てる損失、浪費する無駄を防ぐに留まらず、同じ資源に何倍ものはたらきを持たせる経済センスの育成にもつながります。

 

また、物の処遇に心を用いることは、広く一般的に、声なき者、言葉なきものの立場や意識を理解し、行動に反映させる能力を磨くことにも通じます。

 

さらには要員の適材適所、効果的チームワーク、個性の引き出しをもって、多大な恩恵をもたらしうる資源・人材活用のセンスに発展する土台・背景ともなります。

 

六、いつも役目を果たしましょう。

常に自分の役割を考え、それに添って判断し行動する姿勢を養うことは、やがて天命を知り全うする、指針獲得の最も成熟した形への意識づけることは、はじめに目的を考えるという、問題解決的思考の習慣化にもつながります。

 

また、役目を考えることは、おのずと社会、家庭における立場上の指針に意識が向かう機会を作ることにもなります。

 

さらには、おのおのが固有の役割を果たす互恵・調和の秩序の一員としての自覚を養うもとにもなります。

 

七、いつも行儀をよくしましょう

「行儀」はみだりに動かないことからはじまり、マナーやルールその他の規範を守ることまで幅広い内容を代表しています。

 

これは人間社会で生きて行く上での基本を身に付けることの出発点であり、ひいては純良な性向、高い品格、徳性を養うこと全般に連なるものです。

 

まさにこの分野こそ、幼年期からの地道な、辛抱強い指導がなくてはならないところであります。

 

八、いつも工夫に努めましょう。

「工夫」は知力を発揮すること、受け継いだ知恵を使うこと全般につながります。

 

工夫や研究の欠如は、時として無自覚のうちに罪悪の害よりも大きな損失をもたらします。

 

逆にいかなる犠牲を払っても不可能と考えられたことを可能にする場合があります。

 

常に工夫を意識することは短期・長期の成り行きを大きく変えると共に、工夫の放棄と一体をなす他者責難・被害意識の克服、自立的な問題解決思考の習慣と能力を養います。

 

九、いつも用意と後始末をしましょう。

ものごとの失敗の実に多くの原因が態勢実現の不備、またその自覚の不足にあります。

 

ほんのちょっとした事前の準備が過程全体を左右することの自覚形成は、そのまま人生全体を左右することになります。

 

同様に事後の後始末如何で本過程の収穫ばかりでなく、続く段階、次の担い手による続行が大きく影響を受けます。

 

これらの体得は広く課題達成・能力発揮の支えであり、技量を養う基礎として生涯の基盤となります。

 

十、いつも約束を守りましょう。

約束を守ることは人間としての信用を形成し維持する極めて基本的にして普遍的な要件です。

 

約束を守るように意識づけることは、守れる形で約束をする予見の能力と、周囲や他者に対する責任を果たす姿勢を養います。

 

また、自らの意志で選択・決定した行動を、最後まで忍耐強く全うする姿勢の発達をうながします。

 

さらに、結果としての現状を、常に自身の使命や当初の意志、約束その他の指針に照らして評価・検証し、将来のために活かしていく進歩改善の積み重ねの基を築くことにもなります。