Ⅰ.成人要目の語義と概念
- (満足な社会人であるために必要な事項の全体)を成人要目と呼ぶ。
- 「いかに学ぶ(教える)べきか」に対して「何を学ぶ(教える)べきか」にあたる。
- 「よみ、かき、ソロバン」、「知育、徳育、体育」等は成人要目の簡略表現と言える。
- それぞれの社会、民族、文化、あるいは時代に固有の成人要目が想定される。
- 成人要目は必ずしも、その社会の人々によって明瞭化されているとは限らない。
- 成人要目を示した資料を指しても成人要目と呼ぶことがある。
Ⅱ.成人要目の成立と機能
- 成人要目の概念は、YRI(1986)の『青少年は何を学ぶべきか』の考察から生まれた。
- 社会生活に必要と考えられる事項を全域的にとらえ、整理・体系化したものである。
- 成人要目は、人が属する社会の一員として生きて行くために学ぶべき基本事項を含む。
- 従って、その社会の義務教育に本来網羅すべき内容の基本と考えられる。
- いわゆる人間教育とは成人要目の教育をその基礎とするものでなければならない。
- 成人要目の概念によって人間教育の中身を論点として対象化することができる。
Ⅲ.成人要目の五大分野
1.【指針獲得】--人生の指針を得る
真理観・宇宙観・歴史観・人生観、人間生活・家庭人・社会人としての基本心得など
2.【基本体得】--基本的資質を養う
健全な習慣・教養の涵養、体力・技能力・判断力・精神力・の育成など
3.【英知伝承】--処世の技量を培う
社会的使命、処世の知恵、試練対応の知恵、諸論議への洞察、異文化知識など
4.【能力開発】--各種の能力を開発する
精神技術、身体技術、外国語、生活技術、学習・研究・問題解決技法、業務能力など
5.【行動体験】--有意義な実体験を積む
高度文化遺産・人物との対面、見聞発展の旅、難条件生活体験、趣味充実など
Ⅳ.一般の現状
- 社会人として必要にもかかわらず、学校(公教育)では習わないことは少なくない。
- 学術専門の初歩知識の体系としての教育課程では人生全般の必要事項は網羅され難い。
- 従来の教育論議では、必ずしも成人要目のような網羅性の視点は導入されていない。
- 成人要目の伝承に支障を来たすことはその社会・民族にとっての危機と言える。
- 社会的問題とされることの多くは、成人要目の伝承障害の影響の一面と考えられる。
Ⅴ.成人要目の確立と普及
- 成人要目の内容の充実と精選化
- 成人要目教育のためのカリキュラム開発
- 成人要目カリキュラムの指導者養成・選定
- 教育の実施態勢・支援態勢の拡充
- 実践成果の収穫と活用による普及促進
A.生きる基本姿勢をととのえる(指針獲得)
- 世界・宇宙の実像に関する見識をもつ。
- 人生の意義について普遍妥当の認識に迫る。
- 人間生活の基本的なあり方について学ぶ。
- 家庭人としての各期、各立場における心得を学ぶ。
- 社会の一員としての各期、各立場における心得を学ぶ。
B.人間としての基本的資質を養う(基本体得)
- 純良、健全な性向を培う。
- 健全な思想をもつための基礎的教養を身につける。
- 基本意欲の自律的で適切な発揮の習慣を養う。
- 各種精神力を養う。
- 基本的生活習慣を身につける。
- 基本的な判断力を養う。
- 基本的な体力、運動能力を養う。
C.処世の技量となる見識を養う(英知伝承)
- 社会のあるべき姿について学び、その実現の志を養う。
- 人間社会における処世の知恵を学ぶ。
- 異常時の対処と、平常心のもち方を学ぶ。
- 逆境、試練の克服の知恵を学ぶ。
- 現実社会の諸問題、諸論議に関しての認識を深め正しい判断力を養う。
- 人類世界、民族、地域の歴史とその教訓を学ぶ。
- 未知の物事に接する心の備えを学ぶ。
D.人生・社会に有用な諸能力を広く開発する(能力開発)
- 各種精神技術を学ぶ。
- 主要言語、近隣国言語で簡単な会話ができるようになる。
- 各種身体技術を学ぶ。
- 心身統合の技の道を学ぶ。
- 学業と真理追求に役立つ各種の知識・技法を学ぶ。
- 実生活に役立つ各種の知識・方法を学ぶ。
- 問題解決、業務遂行一般に役立つ各種の知識・技法を学ぶ。
- 各種感覚力を高める。
E.心の深みを養う実体験を積む(行動体験)
- 一流の文化遺産、人物、生産品に触れる。
- 質の高い見聞を豊かにする。
- 脱・温室的環境条件の下での生活を体験する。
- 原点に遡り伝統を受け継ぐ行動様式を体験する。
- 生活を豊かにする趣味を養う。