潜進期  2005.8/11

鉄棒の逆上がりは、基本的には両手でぶら下がって逆さになり、腿のあたりにくる鉄棒をヘソの方まで引きつけることによって、下半身が鉄棒を越えることを可能にするものです。

したがって、自分の体重を引き上げるだけの腕の筋力があれば、大抵はその日のうちにでも習得可能です。

子供の目には、逆上がりはいかにも下半身が宙に浮いて鉄棒を飛び越す動きに見えるので、足で地面を蹴って下半身を空中高く舞い上げようとします。

ところが、両腕に筋力がなく、肘が終始ピンと伸び切っているような状態では、重たい下半身はあえなく後戻りしてしまいます。

それでも毎日あきらめずに繰り返し鉄棒に取りついているうちに、だんだんと腕に筋力が付き、ついには始めての成功の日を迎えるわけです。我々が少年の頃の定番のストーリーでした。

その日までの一見無変化の時期と失敗の繰り返しは、全く無駄なものかというと、それなくしては習得に至らない、むしろ必要なプロセスだったと言えます。

懸垂から入ればもっと合理的ではありますが。

このように、どうあがいても技にならず、失敗に終わる試行の繰り返しだけれども、目立たないところで要素となる能力が養われ、ある面では着実に成功に近付いている時期を「潜進期」と呼んで概念化したいと思います。

つまり、潜行的な形では進歩しているが、目に見える前進向上ではないという期間です。

「顕進期」という概念も一対のものとして成り立ちます。

「潜進期」がしばしば見られるような技芸の分野では、階段の踊り場にたとえられることもあるようです。

その間は一見伸びが止まったように見えるわけです。

これはスランプと言われる状態とは種類が違うと思われます。

この「潜進期」の過ごし方は、それぞれの分野によって特有の知恵があるのかもしれませんが、少なくとも言えることは、諦めたり投げ出したりしないこと、続けることです。

逆上がりもそうですが、ISTも、「潜進期」が初っ端にあり、その長さも個人差が大です。

そのため、技の完成間近まで来て、自分は向いていないのではと言う不安に襲われたりしがちです。

十五日研修では、その十二日目頃が焦りのピークというのが一つのパターンのようです。


(旧メッセージナウ2005年8月16日記事より)